2012年4月27日金曜日

環境と自然 - 環境問題 - 燃料電池特集


なぜ注目されているのか?

映画で有名な『アポロ13号』のミッションで、燃料電池が重要な"舞台装置"となっていたことはあまり知られていないかもしれない。史上3度目の月面着陸を目指し、1970年に打ち上げられたアポロ13号は、地球から33万キロ離れたとき、司令船の酸素タンクが突然爆発した。酸素は3人の乗組員たちの生命維持に必要なだけではなく、実は船内に搭載されていた燃料電池の発電にも用いられる重要な物質でもあったのだ。そのため、船内は深刻な酸素不足と電力不足に直面し、乗組員は消費電力を生命維持に必要な最低限にまで抑えなければならなくなった。ヒーターも消したため、乗組員は冷蔵庫のように冷えた船内で地球までの帰路を過ごしたと言われている。

アポロ13号で重要な鍵を握った燃料電池は、1960年代にNASAに採用されたことで実用化が始まり、注目を浴びた。NASAが評価したのは、燃料電池がクリーンなエネルギーであり、かつ体積当たりの発電量が多かった点だ。また、発電の副生産物として作り出される水が乗組員の飲料用としても利用可能なことから、有人宇宙船の発電装置として採用することになった。燃料電池が初めて宇宙船に搭載されたのは、宇宙遊泳などの船外活動を行うことなどを目的として行われた「ジェミニ計画」(1965~66年)においてである。その後も開発が続けられ、現在もその利便性からスペースシャトルに搭載され活躍を続けている。

宇宙環境における利便性から実用化が始まった燃料電池だが、約40年経った今、再び新たなエネルギー技術として大きな注目を浴びている。

燃料電池が求められるワケ


どのようなバイオマスは、植物としなければならないのでしょうか?

そもそも、新たなエネルギー源が求められている背景には、二つの大きな理由がある。それは、「エネルギー問題」と「環境問題」だ。化石燃料である石油はあと40年、天然ガスも約60年で枯渇すると試算されている。化石燃料に頼った現在のエネルギー消費を続けていくわけにはいかず、資源枯渇への対策は急務となっている。また、化石燃料の燃焼によって排出されるCO2も大きな問題だ。温室効果ガスであるCO2が増えれば、地球温暖化がますます進む。日本は京都議定書で、温室効果ガスの排出量を2008~2012年の間に1990年比で6%(1.6億トン)削減することを目標としており、その対策としても、新たな形のエネルギー開発が重要な課題となっている。

燃料電池は、発電において化石燃料を必要としない(ただし、現状では発電の原料となる水素を精製する過程で化石燃料を使用している)。また、発電によって発生する物質も水蒸気(水)のみなので、上記の2つの課題を同時に解決することが可能だ。この夢の発電装置"燃料電池"による発電の鍵を握っているのが「水素」だ。「水素社会」という言葉も徐々に浸透し始めているが、そもそも水素とはどのような物質なのか。

水素の魅力とは?

水素は最も軽い元素(H)であり、宇宙で最も多く存在している物質だ。地球上では、水や天然ガスの中に含まれていることが多い。水素が注目される理由について、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の宍戸さんはこう説明する。


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「水素が注目される理由は大きく分けて、2つあります。まず一つは、燃料電池自動車に応用した場合、走行中のCO2排出がゼロになるということ。これは、燃料電池が水素と酸素を反応させるだけなので、ガソリン車のように、燃焼させることによるCO2排出がないためです。」つまり、水素を利用することで、地球温暖化の問題を根本的に解決する策となり得るのだ。

「もう一点は、水素は生成方法(改質)がいくつかあるということ。現状では化石燃料から水素を取り出す方法が最も近い姿ですが、その他に製油所や苛性ソーダの化学プラントなどの工業プロセスで、副生成物として発生する水素の利用も考えられます。さらに、少し遠い将来にはなりそうですが、太陽光や風力といった自然エネルギーで発電した電気を水素に変換して貯蔵しておくこともできます。また、原子力の熱エネルギーが直接水に作用にして水素を生み出す方法などもあります。このように、水素は製造方法がいくつかあるのでエネルギーセキュリティの観点から注目されています」。

現状では化石燃料から水素を精製する方法が最も多く採用されているが、将来的に期待される自然エネルギーから水素を生成する方法を用いれば、燃料電池は究極のクリーンエネルギーと呼べるだろう。化石資源に頼らない水素は資源問題とも無縁の存在なのだ。

エネルギー効率において優等生


ヘリウム風船が浮くなぜ

多くのメリットを持つ水素。この水素を利用した燃料電池には、さらに優位性が存在する。それは、発電の際に生じるエネルギーロスと送電ロスの問題を解決できる点にある。燃料電池をエネルギー源として利用することのメリットを、宍戸さんはこう話す。

「燃料電池の場合、化学的エネルギーを直接電気エネルギーに変えることができます。例えば、火力発電などの場合は、一度熱に変換する中間プロセスが発生しますが、燃料電池はそのプロセスが必要ないため、非常に効率の良いエネルギーとなっています」。
化石燃料を使用して電気を作る場合、石油や石炭など(化学エネルギー)を燃やし、熱を発生させ(熱エネルギー)、熱した蒸気でタービンを動かし(運動エネルギー)、それによって発電機を回すことで電力が生まれる(電気エネルギー)。エネルギーはその形態を変える度に力を失っていくため、発電効率は50%前後にとどまる。
一方、燃料電池を使用した場合は直接反応させ電気が作られるため、発電効率は最大60%程度まで引き上げることが可能だ。

さらに、火力発電などの場合、規模が大きくないとエネルギー効率を確保できないが、燃料電池の場合は家庭用の小さいものでも高いエネルギー効率を実現できる。それは、燃料電池の構造上、発電効率が規模によって左右されることがないからだ。また、発電で生じる熱をそのまま生活に利用することができるため、さらに効率を高めることが可能となる。第2回で詳しく取り上げるが、燃料電池では電気とともに熱が生み出される。発電場所が近ければ、排熱を家庭で給湯に利用できるというメリットもある。「コージェネレーション」と呼ばれるこのシステムは家庭用燃料電池「エネファーム」でも採用されている。


小型の施設でも発電効率が落ちない燃料電池は、分散設置することにも適しており、送電の際に生じるロスも最小限に抑えることができる。通常、発電所からの送電を利用した場合、家まで電気が運ばれてくるまでに必ず送電ロスが発生するが、家庭用燃料電池であれば、自宅で発電できるため、送電ロスが発生することはない。 コージェネレーションも含めた発電から利用までの総合エネルギー効率で考えた場合、現在行われている発電方法のエネルギー効率が35%に留まるのに対して、燃料電池は80%にもなる。

このように燃料電池は、将来的に見ると持続可能で環境に優しく、今までの発電方法に比べるととても効率が良い発電方法なのである。

第1回目は燃料電池が次世代エネルギー技術と呼ばれる理由について探ってきたが、
次回は燃料電池の歴史と原理についてより詳しく解説していこう。

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